川崎フロンターレはクラブ創設30周年という歴史的な節目を前に、かつてない規模のチーム再編と構造改革の渦中にある。
2026年2月から6月にかけて開催される「明治安田Jリーグ百年構想リーグ」は、同年8月に開幕する秋春制(2026-27シーズン)への単なる移行期間としての位置付けを超え、フロンターレにとっては「新生・川崎」のアイデンティティを確立するための極めて重要なコンペティションとなる。
2026年1月21日時点で公式に発表されている選手登録情報および確定した移籍情報に基づき、来るべき半年間のシーズンに向けた詳細な戦力分析と展望を行うものである。
チョン・ソンリョン、ジェジエウ、登里享平、山根視来といった近年の黄金期を支えた功労者たちが去り、さらには山田新(セルティック)、高井幸大(ボルシアMG)、遠野大弥(横浜FM)といった主力級の流出もここ数年で流出している状況は明確に「第二創業期」とも呼べるフェーズに突入しているといえる。
新加入のスベンド・ブローダーセン、紺野和也ら即戦力級の補強と、長璃喜をはじめとする高卒ルーキーたちの融合がもたらす化学反応を分析する。
また、本大会特有のレギュレーションである「完全決着方式(引き分けなしのPK戦)」が、チームの戦術や選手起用にどのような影響を及ぼすかについても深く考察する。
第1章 「百年構想リーグ」の構造的特異性と戦略的含意
1.1 大会フォーマットが強いる「勝利への執着」
2026年前半の「特別大会」は、従来のリーグ戦とは一線を画すレギュレーションで行われる。最大の変更点は、グループステージ(地域リーグラウンド)における「引き分けの廃止」である。
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完全決着方式の導入:90分で同点の場合、即座にPK戦が行われる。
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勝ち点配分:
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90分勝利:3点
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PK戦勝利:2点
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PK戦敗戦:1点
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90分敗戦:0点
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このルール変更は、川崎フロンターレのゲームモデルに多大な影響を与える。従来の「相手を押し込み続け、引いた相手を崩し切る」スタイルでは、90分で勝ち切れなかった場合に勝ち点1を分け合うことが多かったが、本大会ではPK戦という不確定要素により、勝ち点期待値が「2」または「1」に変動する。
これは、これまで以上に「90分以内で仕留める」攻撃力が求められると同時に、PK戦を見据えたGKの能力や、試合終盤の交代策(PKキッカーの確保など)が戦略の鍵を握ることを意味している。
1.2 降格なしの「実験場」としての側面
本大会にはJ2への降格がない。
これは、2年目の長谷部茂利体制にとって、結果への過度なプレッシャーから解放され、大胆な戦術的試行錯誤と若手の抜擢を可能にする環境である。
特に、高井幸大の海外移籍やジェジエウの退団によって再構築を余儀なくされたディフェンスラインの連携構築において、この半年間は貴重な「実戦的プレシーズン」としての価値を持つ。
第2章 ゴールキーパー部門:10年ぶりのパラダイムシフト
長年、川崎フロンターレの最後尾に君臨したチョン・ソンリョンがチームを去り(福島ユナイテッドFCへ移籍)、2026シーズンはGK部門における完全な刷新が行われた。
登録されているGKは以下の4名である。
| 背番号 | 選手名 | 年齢 | 身長/体重 | 前所属/備考 |
| 1 | 山口 瑠伊 | 27 | 187cm/80kg | 背番号変更(98→1) |
| 21 | 早坂 勇希 | 26 | 184cm/83kg | いわきFCより復帰 |
| 33 | イ クンヒョン | 19 | 194cm/86kg | 韓国・輔仁高 |
| 49 | スベンド ブローダーセン | 28 | 188cm/87kg | 新加入(ファジアーノ岡山) |
2.1 スベンド・ブローダーセン(No.49):PK戦を見据えた戦略的補強
ファジアーノ岡山から加入したドイツ人GK、スベンド・ブローダーセンの獲得は、前述の「完全決着方式」を見据えた極めて論理的な補強である。
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シュートストップ能力:ブローダーセンは驚異的なセーブ率を記録しており、至近距離からのシュート反応速度はリーグ屈指である。
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PKへの適性:彼のキャリアにおいてPKストップ率は高く、引き分け即PK戦となる本大会においては、勝ち点「1」を「2」に変えることができる「スペシャル・ワン」としての役割が期待される。
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課題と融合:一方で、フロンターレが伝統的にGKに求める「ビルドアップへの参加」や「広大なディフェンスライン背後のカバーリング」については、彼のプレースタイル(ライン上でシュートを止めるタイプ)との擦り合わせが必要となる。
2.2 山口瑠伊(No.1):新守護神の覚悟
昨シーズン加入し、シーズン終盤に出場機会を得た山口瑠伊が、名実ともにNo.1を背負うこととなった。
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モダンな特性:山口は足元の技術に優れ、ビルドアップの始点として機能することができる。また、ハイラインを敷くチーム戦術において、積極的にペナルティエリア外へ飛び出すプレーも厭わない。
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競争の構図:90分での勝利(勝ち点3)を目指す攻撃的な展開では山口の配球力が、接戦でPK戦が予想される展開や守勢の試合ではブローダーセンのセービング力が、それぞれ重宝される可能性がある。この二人のハイレベルな競争は、チームの守備戦術に多様性をもたらすだろう。
2.3 将来への布石
194cmの長身を誇る韓国の若手イ・クンヒョンと、アカデミー出身でJ2での経験を積んで戻ってきた早坂勇希の存在は、GKチームの層を厚くしている。
特にイ・クンヒョンは、チョン・ソンリョンの系譜を継ぐ「大型韓国人GK」として、将来的な正GK候補として育成されることになる。
第3章 ディフェンスライン:高さと強度の抜本的改革
守備陣、特にセンターバック(CB)の再編は、2026シーズンの最重要テーマである。
ジェジエウの退団、高井幸大の海外移籍に加え、車屋紳太郎の引退もあり、DFラインの顔ぶれは一変した。
3.1 センターバック:欧州基準の導入と国内屈指の才能
クラブは明確に「高さ」と「対人強度」の欠如という課題に対し、的確なソリューションを提示している。
フィリップ・ウレモヴィッチ(No.22):クロアチアからの「闘将」
昨年ハイドゥク・スプリトから完全移籍で加入したウレモヴィッチは、本シーズンの守備の要となれるか。熱くなりやすい性格をどこまで改善できるか。Jリーグにフィットできるかがポイントになる。
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プロフィール:184cm、28歳。クロアチア代表経験あり。ブンデスリーガ(ヘルタ・ベルリン)やイングランド(シェフィールド・U)でのプレー経験を持つ。
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プレー特性:彼の最大の特徴は「粘り強さ」と「アグレッシブな対人守備」である。インターセプトや空中戦の競り合いにおいて強さを発揮し、ジェジエウが担っていた「防波堤」としての役割を継承する。また、右サイドバックもこなせるユーティリティ性は、3バックと4バックの可変システムを採用する場合に大きな武器となる。
谷口栄斗(No.3):新たなディフェンスリーダー
東京ヴェルディから獲得した谷口栄斗は、かつて谷口彰悟が背負った伝統の背番号「3」を継承した。
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プレー特性:ビルドアップ能力に定評があり、最後尾から攻撃を組み立てる能力はJリーグ屈指である。東京Vのアカデミー出身らしく、技術的なベースが非常に高い。
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役割:ウレモヴィッチが「剛」ならば、谷口栄斗は「柔」の役割を担う。ラインコントロールやコーチングによって守備組織を統率し、攻撃のスイッチを入れる縦パスを供給することが求められる。
丸山祐市(No.28):経験という武器
左利きのベテランCBである丸山は、その経験値と左足からのフィードで独自の価値を提供する。特に新戦力がフィットするまでの期間、彼の安定感はチームにとっての精神安定剤となるだろう。
3.2 サイドバック:攻撃性能の最大化
佐々木旭(No.5)&三浦颯太(No.13):日本代表クラスの両翼
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佐々木旭:左右両サイドに加えCBもこなすポリバレントな能力を持つ。昨季は得点力も開花させており、神出鬼没な攻撃参加は相手にとって脅威となる。
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三浦颯太:怪我からの完全復活が待たれる左サイドのスペシャリスト。爆発的なスプリントとクロス精度は、ストライカーが変わった新チームにおいて、得点源の一つとなる。
山原怜音(No.29):セットプレーという新たな武器
清水エスパルスから加入した山原怜音は、右利きのキッカーとして極めて高い精度を誇る。
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戦略的価値:直接フリーキックやコーナーキックからの得点力不足に悩むことがあったフロンターレにとって、山原の右足は「飛び道具」となる。特に、高さのあるウレモヴィッチやエリソンへの供給源として、セットプレーの得点率を劇的に向上させる可能性がある。
アカデミーからの昇格組:関徳晴(No.31)&林駿佑(No.32)
U-18から昇格した関徳晴(186cm)と林駿佑は、大型の守備者として将来を嘱望されている。特に関は、サイズがありながらサイドバックをこなせる希少なタレントであり、シーズン中のブレイクも十分に考えられる。
第4章 中盤の構成:技術と強度の融合
中村憲剛、大島僚太、脇坂泰斗と受け継がれてきた「技術の川崎」の系譜に、新たなエッセンスが加えられた。
4.1 ゲームメイクの再定義
山本悠樹(No.6):新時代のレジスタ
ガンバ大阪から加入後、着実にチームの中心となりつつある山本悠樹が背番号「6」を背負う。
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役割:守田英正やジョアン・シミッチが抜けた後のアンカーポジション、あるいはダブルボランチの一角として、長短のパスでゲームのリズムを作る。彼の展開力が、新加入のウインガーたちを活かす生命線となっている。天才。
大島僚太(No.10)&脇坂泰斗(No.14):不動の心臓
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大島僚太:怪我との戦いは続くが、ピッチに立った時のクオリティは別格である。ハーフシーズンという短期決戦において、彼のコンディション管理がタイトルへの鍵を握る。
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脇坂泰斗:キャプテンとして、また攻撃の核として、得点とアシストの両面で数字を残すことが求められる。新戦力との連携構築におけるハブ役としても重要である。
4.2 「個」で剥がす力の注入
紺野和也(No.18):異質のドリブラー
アビスパ福岡から加入した紺野和也は、これまでのフロンターレの中盤には少なかった「独力で局面を打開する」タイプの選手である。
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戦術的意義:パスワークで崩せない時の「ジョーカー」として、あるいは右サイドからのカットインでディフェンス組織を破壊する役割を担う。家長昭博とは異なるリズムのドリブルは、攻撃のアクセントとなる。
河原創(No.19):広範囲をカバーするダイナモ
2024年夏に鳥栖から加入した河原は、その圧倒的な運動量とボール奪取能力で中盤の守備強度を担保する。トランジション(切り替え)の速さを重視する現代サッカーにおいて、彼の存在は不可欠である。
新卒ルーキー:山市秀翔(No.25)&由井航太(No.26)
早稲田大学から加入の山市(元アカデミー)はリーダーシップと球際の強さ、レンタルバックの由井は成長した姿を見せることが期待される。
第5章 攻撃陣:スピードと決定力の刷新
山田新(セルティック)、遠野大弥(横浜FM)らの退団に伴い、前線の顔ぶれは劇的に変化した。2026年の攻撃陣は「スピード」と「個の突破」に重点が置かれている。
5.1 ラザル・ロマニッチ(No.91):万能型ストライカー
セルビアからやってきたラザル・ロマニッチは、新たなエース候補である。昨年はまだまだフィットとは言えなかったが今年はさらに数字面での成長を期待したい。
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プロフィール:183cm、27歳。FW/WG。
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プレースタイル:単なるボックス内のフィニッシャーにとどまらず、サイドに流れてのチャンスメイクや、前線からの守備もこなす万能型である。ヒートマップは広範囲に及んでおり、エリソン(No.9)のフィジカル重視のスタイルとは異なる、流動的な攻撃を可能にする。2トップの一角や、ウイングとしての起用も想定される。
5.2 伊藤達哉(No.17):欧州帰りのドリブルモンスター
ドイツ・マクデブルクから完全移籍で加入した伊藤達哉は、JリーグのDFにとって悪夢のような存在になっている。2025年は間違いなくJ1ナンバーワンのドリブルスターだった。
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「切り札」としての価値:小刻みなステップと爆発的な加速力で相手を翻弄するドリブルは、特に試合終盤、相手が疲労した時間帯に絶大な効果を発揮する。
5.3 長璃喜(No.34):プラチナ世代の超新星
昌平高校から加入した長璃喜(おさ・りゅうき)は、高卒ルーキーながら即戦力としての期待が高い。
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「三笘」の再来?:そのドリブルの推進力とシュート技術は、高校年代では突出していた。「加速装置」と形容されるスピードは、プロの舞台でも通用するポテンシャルを秘めており、ファン・サポーターに最も期待されている若手の一人である。
5.4 既存戦力との融合
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エリソン(No.9):フィジカルモンスターとしての突進力は健在。ロマニッチとの関係性が構築できれば、強力な2トップが形成できる。
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マルシーニョ(No.23):スピードスター。伊藤達哉や長璃喜の加入により、左サイドの競争は激化するが、それが全体のレベルアップにつながる。
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小林悠(No.11):クラブのレジェンド。出場時間は限定的になるかもしれないが、ゴール前での嗅覚は衰えていない。ここぞという場面での「アンパンマン」のゴールは、チームを救うはずだ。
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家長昭博(No.41):攻撃のタメを作る絶対的な存在。若手・新加入選手が多い中で、彼の「時間を作る」プレーはより重要性を増す。
第6章 戦略的展望と結論:アグレッシブな進化へ
6.1 システムの可変性とオプション
長谷部茂利監督の下、フロンターレは従来の[4-3-3]に加え、[4-4-2]や[4-2-3-1]など、より柔軟なシステムを採用する可能性がある。
特に、ウレモヴィッチ、谷口、丸山とCBに実力者が揃い、サイドバックも攻撃的な選手が多いため、守備時は[4-4-2]ブロックで堅く守り、攻撃時はサイドバックを高く押し上げた[2-3-5]のような形で攻め込む可変システムが予想される。
6.2 U-21リーグとの連動
2026/27シーズンから本格始動する「U-21 Jリーグ」への参加は、若手選手(由井、大関、野田、神田、高卒ルーキーら)の実戦経験確保において大きな意味を持つ。トップチームの試合に出場できない若手が、高い強度の中で試合勘を維持・向上させることができるため、過密日程や怪我人が出た際のバックアップ体制がこれまで以上に強固になる。
6.3 30周年、そして「THE国立DAY」
2026年はクラブ創設30周年イヤーであり、スローガンやロゴも刷新された。その象徴的なイベントとして、3月22日に国立競技場(MUFGスタジアム)で開催される横浜F・マリノスとの「神奈川ダービー」が予定されている。この試合は単なる一戦ではなく、新生フロンターレの力を全国に示すショーケースとなるだろう。
結論
2026年前半の川崎フロンターレは、過去の成功体験に固執することなく、**「高さ」「速さ」「強度」**という現代サッカーの必須要素を外部から積極的に取り入れることで、劇的な進化を遂げようとしている。
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守備:谷口とブローダーセンの加入により、物理的な弱点を克服。
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攻撃:エリソン、伊藤、紺野という「個で殴れる」タレントを加え、パスワークへの依存度を下げることで、手詰まり感を解消。
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戦略:完全決着方式のルールに適応した、PK戦も辞さない(しかし90分で勝ちに行く)強かなゲーム運び。
「Jリーグ百年構想リーグ」は、8月から始まる本番(2026-27シーズン)に向けた助走期間ではない。
それは、30周年の節目に、川崎フロンターレが再び日本の頂点に立つための、新時代の幕開けを告げるファンファーレとなるはずだ。